お客様から「そちらの料理を食べてから、体調を崩した…」という電話が入ったら、どう対応すれば良いのでしょうか。
えっ…その…パニックになっちゃいます!
「飲食店で働いている以上、食中毒に対して高い危機意識を持って当然だ!だからそんな電話かかって来るはずない!」と思っていませんか?
店長たるもの、危機管理は常に最悪を想定して準備しなければなりません。もしもそうなった時、率先して対応を進められるでしょうか。
原因をハッキリさせるためにも、店長や責任者はきちんとした対応の手順を理解しておく必要があります。
■飲食店で店長を10年以上経験している現役飲食店長です。
■(こんな僕ですが)飲食業界で働く人の悩みや不安を解消したい!
■飲食サービス業が大好き!魅力ややりがいを伝えたい!
■お客様、上司や部下、アルバイトさんと接した日々は宝物
この記事では、お客様からの問い合わせにどう対応すれば良いのか、食中毒の恐れがある時に店長がとるべき行動を徹底解説します!
体調悪化の電話がかかってきたら
まずは店長自身が落ち着きます。慌てて全面的に謝罪をしたり、お客様を疑ったり、否定しないように気を付けましょう。
「確認すべき6項目の事実関係↓」を確認し、病院に行って頂くようにお願いします。
部分謝罪をする
電話があった段階では、まだお店の食事が原因で体調を崩しているかどうか分かりません。もしかするとお客様の体調管理や暴飲暴食が原因かもしれません。
ですが、お客様が実際に症状に苦しんでおられることは事実ですので、まずは「不安な思いをさせていること」に対する部分謝罪をします。
「発熱と腹痛の症状があり、当店で食事をされた後なので、当店の食事が原因ではないかということですね。ご不安な思いをお掛けし、申し訳ございません。」
全面的な謝罪をしないように注意!
事実確認の6項目を聞き取る
お客様は「食中毒かもしれない」と大変不安です。正しい原因を突き止めるために、お客様にいくつか確認をします。電話口が本人でなくても構いません。
① お客様の氏名と電話番号
② ご来店された日時
③ 食べたメニュー(レシート番号があれば一番良い)
④ どんな症状がいつ頃からあるのか
⑤ 来店人数(他の人には症状が出ていないか)
⑥ 病院に行かれたかどうか
必ずメモを取りながら進めます。復唱しながらきちんとメモをします。
「食べた中の〇〇じゃないかと思うんだ」と言われたら「何かおかしいと感じられた部分がございましたでしょうか?」と、詳しく伺ってゆきます。
最低でも上記6項目は必ず伺いましょう!
すぐに病院を受診してもらう
ひと通り事実関係を把握したら、お客様に病院を受診して頂くようにお願いをします。
お客様の症状が食中毒によるものなのかどうかをハッキリさせる必要があるからです。
また、食中毒だとしても、他の店での食事が原因の可能性もあります。菌やウイルスの種類を特定できなければ、自分のお店によるものなのか判断できません。
「病院に行くほどではない」と言う人や、深夜などで病院がやっていない場合でも、改めて病院に行ってもらうようにお願いをしましょう。
「念のため、必ず病院で診察と検査を受けて下さい」
「明日でも構いませんので、必ず病院に行って頂くようにお願い致します」
今後の対応を伝えて電話を切る
お客様には、病院に行った後に連絡を頂けるようにお願いします。診断結果には2~3日かかる場合もありますが、診察を受けたという確認が必要です。
また「お店側でも早急に調査を進めること」「店側からも保健所に知らせること」も伝えて、一旦電話を切ります。
「病院で診察を受けて頂きましたら、お手数ですが、ご一報頂いてよろしいでしょうか。私、店長の〇〇でございます。保健所には、私共からも報告を致します。指示を仰ぎながら、早急に調査を進めて参ります。何か分かり次第、こちらからもご連絡致します。」
↓
「(念押し)お客様の体調に何かあってからでは遅いので、くれぐれも病院に行って頂きますように、お願い致します。では、失礼致します。」
これで電話応対は一旦終わりです。
お客様が「俺が保健所に通報するから!(お店からは電話するな)」という人もおられますが、必ずお店からも保健所に知らせなければいけません。
他に同じような症状で保健所に連絡が入ってないかを確認する必要があるからです。
店側がやるべきこと
上司・会社に報告
お客様との電話が終わったら、すぐに直属の上司などに報告をします。
確認した6項目に加え、お客様の電話口での口調や怒りのテンションなども伝えます。
また、その日の来客数や食べた料理の出品数も分かり次第報告すると伝え、保健所には自分が報告するか、上司から報告するか、指示を仰ぎましょう。
スピードが大事じゃ!
お客様が食べた料理に関する確認
お客様が食事され、食中毒の原因の恐れがある料理に関する確認をします。
・使用した食材の日付や状態(腐敗していないかなど)
・同じ料理のその日1日の出品数
・来店客数(何人・何組まで分かれば理想)
※複数の単品などを食べていた場合は、それぞれに出品数を確認する
「同じ材料や調味料を使った別の物」まで確認を広げると膨大になります。保健所から調査を求められない限り、現段階ではお客様が食べた料理の出品数で構いません。
もし手が空いてるスタッフがいれば、数の確認作業は任せましょう
その日出勤しているスタッフの体調確認
体調チェック表を確認し、下痢・発熱をしているにもかかわらず、出勤しているスタッフがいなかったかどうか確認します。
出勤しているのに体調チェック表にチェックが無いという事は絶対にあってはいけません。店長の責任において、日頃から注意しましょう。
体調チェック表はありますか?
保健所の検査員も必ず確認する項目です。無ければ「管理できていない」となってしまいます。
出勤時に「下痢・発熱が無い」「手のひらに傷が無い」「出勤時の体温」をチェック・記入する表を作成し、タイムカードの横に設置しましょう。
日頃から、下痢・発熱がある従業員は絶対に出勤させてはいけません!
衛生関係のチェック表の確認
会社で決まっているような、冷蔵庫の温度管理・まな板漂白記録など、定時に行う衛生管理のチェック表があれば、確認し、保管しましょう。
また、トイレチェック表やアルコール噴霧作業のチェック表なども確認し、保管します。
チェック表自体無いよ!日頃から確認しないとね!
「O-157」「ノロウイルス」「黄色ブドウ球菌」などはヒト-ヒト感染をして厨房全体に広がり、料理にも混入する可能性が高い食中毒です。
そのような状態を防ぐためにも、日頃からチェック表を活用し、厨房全体を清潔に保って食中毒予防に努めましょう。
翌日、お客様へのフォロー電話
翌日、必ず店長からお客様に体調確認の電話を入れます。
原因が特定されていなくても、必ず電話をします。誠実に対応することで「ほったらかしか?」という2次クレームを防ぎます。
「〇〇様、昨日は大変失礼いたしました。その後、体調はいかがでしょうか。病院には行かれましたでしょうか。昨日中に保健所と弊社本部に報告しまして、他店でも同じような報告が無いかなど、調査中でございます。」
「またこちらからもご連絡差し上げます。失礼致します。」
食中毒ではなかった場合
病院の診断の結果、食中毒ではなかった場合は、その後にやるべき対応は特にありません。
そのような連絡がお客様から入ったら、改めて体調を伺うなどして、対応を終えます。
上司やお店のメンバーに報告して、一件落着です
食中毒だと確定した場合
立ち入り検査が行われる
診断の結果、食中毒であると判断された場合は「お店で提供した食品によって食中毒になったのか」を確定させるために、保健所の立ち入り検査が入ります。
立ち入り検査はすぐに来ます。検査中は検査員の指示に従います。
「店長・調理長への聞き取り班」と「現場の状況確認班」に分かれるようです。
・当日の客数・出品数の聞き取り
・当該お客様以外に、同じような問い合わせの有無
・衛生関係のチェック表などの書類の有無と、提出&聞き取り
・他店舗では発生していないのかの聞き取り(業者の加工品が汚染されていれば、他店でも発生するため)
・加熱調理、保管方法など、調理の手順や管理のに関する聞き取り
責任者への聞き取りと並行して、厨房では衛生環境の調査が行われます。
・厨房機器の取っ手などの菌の採取…取っ手の他、水道の蛇口の裏側、まな板なども重点的に採取をするようです。
・従業員の手のひらから菌の採取…手の傷から黄色ブドウ球菌などが感染する恐れがあるため。
・賞味期限管理、先入れ先出し、保管方法などの確認
・従業員トイレ…厨房がノロウイルスに汚染されている可能性があるため、手洗い場の蛇口やトイレの便座の裏、便器の淵の裏からも採取します。
・床や棚など、全体的な衛生環境の確認
立ち入り検査は、お店は閉めずに行われることも、営業を停止して行われることもあります。保健所の指示に従いましょう。
O-157やノロウイルスのように、同時発生的に多くのお客様が保健所に被害を訴えている場合は、直ちに営業を停止させて検査に入る場合もあるようです。
検便の提出を求められる場合がある
立ち入り検査で検便の提出を求められる場合があります。その場で提出ではなく、提出容器を手渡され、後日検査員が回収に来るという方法です。
食中毒を訴えているお客様が食事をした日だけでなく、過去4.5日に出勤したメンバー全員の検便を提出しなければいけない事もあります。
ノロウイルスは感染していれば1週間ほど体内に潜伏するため、その部分を調査します。
従業員に連絡して、提出してもらわなきゃ
お客様に連絡をする
食中毒であることが確定したため、お客様に連絡をし「保健所の検査を受けている」「検査の結果が出れば速やかに連絡する」と伝えましょう。
「先ほど、〇〇保健所から現場調査が入り、食中毒が発生した原因の特定をする検査が行われました。検査結果が出次第、すぐにご連絡いたしますので、今しばらくお待ちくださいませ。」
原因がお店だと確定した場合
食中毒の原因が自身のお店の料理であったことが確定されれば、「行政処分」と「お客様への補償」の2つに対応する必要があります。
この段階になれば、店長の裁量範囲を超えているので、上司や本社に対応が移ることになります。簡単に流れを説明します。
弁護士が必要な場合もある。上司に任せるのじゃ。
行政処分を受ける
処分内容は「〇日間の営業停止」というもので、管轄する保健所が決定します。立ち入り検査から1週間ほどで決定されます。
その間は店の営業は停止し、店内施設の消毒と、調理従事者への衛生教育が行われます。また、県や市のHPで施設名が公表されます。
予約のお客様への事情説明と代替案の提案、店入り口への掲示などの対応をします。休業中も玄関にスタッフを配置し、来店される人への説明に当たります。
会社としても、自社のHPに謝罪文を掲載するなど、対応に迫られることになります。
隠さずに、真摯に対応しよう…
お客様への補償をする
お客様へ改めて電話をし、直接会ってお詫びをするためのアポを取ります。店長だけでなく本社上層部の人間が直接会って謝罪をしなければなりません。
金銭的な補償は「治療費」「休業補償」「慰謝料」の3つです。
【治療費】
実際に通院した際の病院の治療費に加え、通院する時のタクシー代などの交通費も治療費に含まれます。
入院治療が必要なケースなど、金額は症状の程度によって大きく異なります。明細や領収書などを頂き、相手の意向もよく汲み取りながら金額を算定します。
【休業補償】
体調を崩している間に仕事ができなかった場合、お客様から休業補償の要求があるかもしれません。
給与額を日割り計算し、欠勤日数分の休業損害を支払います。自営業者であれば、休業日数分の利益を補償する場合もあります。
学生アルバイトや専業主婦であっても、休業補償は発生します。いずれの場合も真摯に、誠実に対応をしましょう。
以下の確認をすることで、トラブルを防ぐことができます。
・仕事を休んだことを確認できる証明書(勤務先に作成してもらう)
・医師に、休業が必要な程度の症状であったのか、欠勤の必要性を問い合わせる。(欠勤の事実があっても、休む程度ではない軽症であれば、補償の対象外になる)※個人情報になるので、問い合わせることにお客様の同意を得る。
これらの手続きが必要な事は理解してもらおう
【慰謝料】
症状に苦しみ、治療・入院をしたことによる身体的・精神的苦痛に対する賠償として、慰謝料を請求されるケースがあります。
症状の程度や、通院日数に応じて、適切な金額をお支払いします。細かい基準がある訳ではないのですが、過去の判例に基づいた慰謝料の相場を以下に示します。
入院や継続的な治療を必要としない場合…慰謝料額 2~3万円
入院や継続的な治療が必要となった場合…10万~30万円
まとめ
日頃の衛生管理を徹底させることは大前提ですが、その上で、万が一にも食中毒が発生してしまった場合は店長が率先して対応しなければいけません。
この記事では、お客様からの問い合わせへの対応から、行政処分・お客様への金銭的補償までを時系列で解説しました。
もしも不誠実な態度でお客様や保健所に接すれば、お店や会社の社会的信用を一気に失ってしまいます。
やるべき対応をしっかりやります!
万が一に備え、この記事を参考にして頂ければ幸いです!