先日、あわやお客様の衣服にコーヒーがかかりそうになり、慌てました。もし、火傷を負わせたり、衣服にかかったりと思うと…
そうだね。いわゆる‟ぶっかけ”の場合は、謝罪だけでなく、補償を提示するなど、きちんと対応しないと後に大きなクレームに発展する恐れがあるからね。
どのような事に注意して対応すれば良いんですか?
発生した瞬間から、「アルバイトさんがやるべき対応」と「その後、店長がやるべき対応」に分けて解説しよう。
■飲食店で店長を10年以上経験している現役飲食店長です。
■(こんな僕ですが)飲食業界で働く人の悩みや不安を解消したい!
■飲食サービス業が大好き!魅力ややりがいを伝えたい!
■お客様、上司や部下、アルバイトさんと接した日々は宝物
熱いものをかけてしまった場合は迅速な対応と処置が必要ですし、高級な服などにぶっかけてしまった時はより丁寧な対応が必要です。
これらの対応は「こぼしてしまったスタッフ本人」「2次対応に当たる店長」どちらにもきちんとした対応が求められます。
この記事では時系列で追いながら、それぞれの場面でどう対応すべきかを見てゆきます。
アルバイトさんも知っておくべき対処法だから、空いた時間で対応方法を共有すると良いね!
ぶっかけ対応の流れと注意点
こぼした本人が直後にすべき対応と注意点
1.すぐに謝罪、お客様にかかっていないかの確認
速やかに謝罪をするとともに、タオルを持ってきたり、テーブルにあるおしぼりなどですぐに拭きます。
それ以上こぼれる範囲を広げず、お客様の服や荷物にかかってしまう事を防ぎます。
「お召し物やお荷物にはかかっておりませんでしょうか?」と確認をします。グループの場合は「皆様も、お召し物やお荷物にはかかっておりませんか?」と全員に確認をします。
運良くかかっていない場合は、丁寧に拭き取ってお詫びし、新しい物をお持ちします。
周りの料理にかかってしまった場合は、その料理の作り直しも提案すると良いでしょう。
テーブルではない所(床や通路)でこぼした時は、予想もしない所まで飛び散っている可能性があるので、注意が必要です。
現場の近くにテーブルやお客様のお荷物があったならば、お客様に謝罪し、かかっていないかの確認をしましょう。
あるイタリアンレストランの事例です。手元が狂ってパスタを床にひっくり返してしまった際、少し離れた椅子の背もたれに掛けていたお客様のコートにソースが飛んでいるのに気づかず、後日、何の対応も謝罪もなかったと、大きなクレームになった事例があります。床にしかこぼしていないので、大丈夫だという認識の甘さが招いた結果です。
お客様への確認は念入りに。丁寧かつ迅速にできるようにしなきゃね。
2.服や荷物にかかったら
お客様の服や荷物を従業員が勝手に拭く行為は基本的にNGです。
慌てて拭き取るとシミが広がったり、生地を傷める可能性があるので、触られたくないというお客様がおられます。
高価な服やカバンの場合は尚更です。ただでさえこぼされた事でスタッフに対して怒りの感情を抱いています。
すぐに新しいおしぼりやきれいな布を用意し、お客様にお渡しするのがベストです。きれいなタオルと一緒にシミ抜きキットや炭酸水をお持ちしましょう。
お預かりできる場合は、「こちらでお預かりして、拭かせて頂いてもよろしいでしょうか」と申し出て(貴重品が入ってないかの確認)預かります。
バックヤードでシミ抜きキットや炭酸水を用いて汚れをとります。
より丁寧な対応はお客様の怒りを鎮める事に繋がります。
やるべき事とやってはいけない事を把握しておくと、とっさの時も冷静になれるね。アルバイトさんと共有しておこう!
3.熱いものをかけてしまった時の対応
コーヒーやラーメンなど熱いものをこぼしてしまい、お客様にかかってしまった場合はどうしましょう!?
熱いものをこぼしてしまったときは、服の汚れよりも、お客様に火傷のケアを優先します。対応を間違えると、火傷を悪化させるだけでなく、対応への不満が更なるクレームを生んでしまいます。
別のスタッフに氷嚢(ひょうのう)を準備するように伝えます。ビニール袋に氷水を入れた簡易的なものでも構いません(破れないように2重に)。
準備ができ次第お客様にお持ちし、再度謝罪します。火傷の程度により、冷たいおしぼりでも構いません。
こちらで勝手に「大丈夫と言ってくれてるから、特に用意しなくてもいいか」と判断してはいけません。し過ぎる事はありませんので、熱いものをかけてしまった際は迷わず冷やす準備をします。
いざという時のために氷嚢もポチろう!
小さめの保冷剤を別で常備しておけば、お客様が帰る時に氷嚢と交換でそのままお渡しできます。
4.速やかに責任者へ報告する
やるべき1次対応がひと段落してから、必ず店長など責任者に報告しましょう。
「店長に怒られるから」「お客様がそんなに怒ってないからいいや」という理由で報告を怠ってしまえば後に大きなクレームになります。
対応中で手が離せないなら、別のスタッフに報告するよう教育しましょう。
店長がすべき対応
1.スタッフを責めずに状況把握
スタッフ本人は大きなミスをやってしまったという、申し訳ない気持ちで一杯のはずです。ショックで泣き出してしまう新人スタッフもいるでしょう。
報告を受けた時の一番最悪な態度は、急に不機嫌になり、面倒臭いことをしてくれたといわんばかりの表情で報告を聞くことです。
そのような態度を続けていると、クレームが発生しても自分たちで無かったことにするようになります。「隠ぺい体質」の組織風土のきっかけになります。
店長はスタッフを頭ごなしに責めてはいけません。
些細なクレームも店長に報告してもらうために、日々の態度に気を付けよう。
①報告してくれた事や1次対応への感謝
「了解、報告ありがとうございます。初期対応もありがとうございました。さすが〇〇さん、迅速な対応ですね。では、僕もお客様へ改めてお詫びに行きます。」
②スタッフ本人の火傷やケガへの配慮
「〇〇さんは大丈夫ですか?火傷したり、割れたものでケガはしていませんか?」
③状況の把握
どのような状況でぶっかけをしてしまったのかを聞き出します。問い詰めず、正確に状況を把握できるように、口調や態度に注意し、聞き出しましょう。
2.お客様へ謝罪に伺う
スタッフから熱い物のぶっかけの報告を受けた場合は、まずは火傷の具合を伺います。氷嚢の準備がまだであれば伺う前に準備し、謝罪時にお持ちします。
名刺を渡し、丁重に謝罪します。
重い火傷の可能性がある場合は、食事を中断し、病院に行って頂くようにご提案します。責任者が病院まで付き添い、交通費と診断料は支払い、診断書を発行してもらう必要があります。
すぐに服の補償などお金の話をすると「そういう事ではない!」と怒りが増すお客様もおられます。火傷の心配に加え、テーブルによっては、大切なお席を台無しにしてしまった事への謝罪をします。
新しく作り直した料理が提供され、テーブル全体がひと通り落ち着いてから、お客様との補償の話に移ります。
3.謝罪後に弁償・補償の話
服を汚してしまった場合、基本的にはクリーニング対応を提案します(原状回復の補償)。
「本日は私共の不手際により、お召し物を汚してしまい、誠に申し訳ございませんでした。こちらのスーツのクリーニングの対応をさせて頂きたいと存じます。」とお伝えします。
事前にある程度の金額を封筒に入れて「こちらはクリーニング代でございます」と手渡すと決めている会社もあるようです。その場合の金額は1,000~3,000円が妥当と言われています。足りなかった場合はご連絡を頂くようにお願いをします。領収書を確認して差額をお支払いします。
また、お金をすぐに渡さない対応もあります。「名刺を渡し、お客様の名前と連絡先を必ず伺います。後日、お客様からクリーニング完了の連絡があったら、金額を確認し、代金をお支払いするという対応です。
基本的な対応方針を会社や上司に確認しておくと良いぞ!
クリーニング完了の連絡があった場合は、クリーニングに出して頂いた事、完了の連絡や領収書の郵送や写真送付など、多大なお手数をお掛けした事に対するお詫びの言葉を添えます。
代金の支払いは謝罪を兼ねて直接お伺いするのがベストですが、訪問されるのを嫌うお客様もおられます。郵送や振り込みなど、お客様の希望に合わせて対応します。
具体的なクリーニングの金額目安や弁償の範囲などはぶっかけ補償編の記事まで。
その日の食事代をサービスするかどうかは、お客様の要望をよく読み取って判断します。
あやふやな基準ですが、その後きちんと食事をされたのであれば、頂いても構わないでしょう。
逆に、謝罪と補償の対応をしても、怒りが収まらず途中で退店されるような場合は、お代は頂きません。
4.アフターフォロー対応
店長不在時にぶっかけが発生した時は、翌日に必ずアフターフォローの電話で謝罪をします。
店長の名刺を渡す、お客様のフルネームと連絡先を伺うなど、アルバイトリーダーができるように共有をしておく必要があるでしょう。
特に、火傷を負わせてしまったお客様には、必ず後日に経過を伺う電話をします。
その日だけでなく、翌日以降も気を抜かない!
クリーニング代金を郵送する際は代金に加えて次回ご利用いただける食事券などを同封し、謝罪の手紙を添えるのも良いでしょう。
再発防止のスタッフ教育と環境整備
①ぶっかけ防止のスタッフ教育
1.安全第一を徹底させる
お客様の席でこぼしたり、服にかけてしまう事例の大半は「料理やドリンク提供時」と「空いたお皿などを下げる時」に発生しています。
不慣れな新人スタッフが無理をしてこぼしてしまったり、ベテランさんが油断をして手元が狂ってしまうなどが良くあるシーンですね。
「その内慣れるから、大丈夫」ではなく、こぼさない・ぶっかけが起こらない環境づくりをしよう。
そのための教育や基準を徹底させるのは店長の仕事じゃぞ!発生時の対応を含め、このブログ記事をそのまま活用するのじゃ!
・新人さんはトレイにワイングラス〇本までしか乗せない、などのルール作り、無理をさせない。
・無理して大量に提供しない。トレイごといったんテーブルに置く(置けない場合はワゴンなどでテーブルに横づけ)。その後両手で提供する事。
・無理やり置かない。卓上のスペースを十分確保してから提供する。
・「後ろから失礼します~」「こちらから、お料理お出しいたします~」と、十分に注意喚起をし、お客様に伝わったのを確認してから提供する。
2.精神的不安を取り除く
忙しい時ほど、こぼしたり、ぶっかけをしてしまう可能性が高くなります。
新人さんは焦ったり、慣れないのに急ごうとして無理をしてしまいます。
ベテランさんは忙しい時ほど、「これぐらいは大丈夫」と、こなしてしまおうとします。
その結果忙しい時にぶっかけクレームが発生してしまうと、責任者は余計に時間をとられて大変です。
店長は、忙しい時ほど無理をさせない声掛けや負担を取り除いてあげる動きをしましょう。
新人さんには、「焦らなくてもいい・ゆっくりで大丈夫」「無理しないで」「安全第一だよ」など、慣れないメンバーの不安な気持ちが和らぐ声掛けをしましょう。
慣れているスタッフやベテランさんにも注意喚起し、「ぶっかけ防止の大切さ」と「発生時の対応」を定期的に振り返ってもらうことが必要です。
②ぶっかけ防止の環境整備
・道具、機械の導入
トレイが滑りやすい→滑り止めシートを貼る。
厨房と客席を何往復もしている→料理を運ぶワゴンの導入など。
・被害を最小限に抑えるための備品を揃える
机の下のカバンや、お部屋に置いてある荷物に布を被せる。
振袖や着物のお客様への紙ナフキンの手渡し。など。
・人的余裕を生み出すシフトや当日の指示出し
スタッフが足りていない時は、料理運びやお客様に提供する瞬間が雑になりがちです。
シフトの充足や、負荷がかかる人や場所には瞬間的な応援を出すなど、負担を少しでも減らす努力やコミュニケーションが必要です。
完成した料理が溜まっているとき、「早く持っていけよ!」と調理スタッフがホールスタッフに怒鳴っている店もあれば、その瞬間に若手の調理スタッフが出てきてホールスタッフと協力して一気に料理を運んでいる店もあります。
ぶっかけクレーム発生を予防するだけでなく、従業員満足やお客様満足にも直結する事だね。
まとめ
今回は、飲食店でよく発生する「こぼしてしまう・ぶっかけてしまう」というクレームについて、発生時の対応方法から、発生を予防する教育や環境づくりについて解説しました。
「もし発生してしまったら」とシュミレーションする事で、冷静に対応する事ができます。
対応をきちんとする事で、お客様の不満や、その後の2次クレームの発生を抑える事ができますね。
店長はその場の謝罪に加え、クリーニング代などの今後の補償の話をしなくてはなりません。お詫びや交渉をする過程で、時間も精神もすり減らしてしまいます。
また、ぶっかけを起こしたスタッフへの指導と精神的なフォローも必要です。再発防止策の立案もあり、やるべき事が多く発生します。
しかし一方で、そんなに悩みこんだり、不安になる必要もありません。やるべき事、やってはいけない事を把握すれば、事態に沿って対応すれば良いのです。
今回の記事をお店で共有して頂き、より良い店づくりに活かして下さい!